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2025.11.09
経営
EC市場の急拡大、生活スタイルの変化、そして「翌日配送」「時間指定」など、物流のラストワンマイルに対する要求は年々高まっている。
そんな中で静かに存在感を増しているのが軽貨物事業だ。
軽バン1台から始められ、街のあちこちで黒ナンバーが走る光景は、もはや日常の一部になった。
だが、見た目以上にこの業界は構造が複雑で、経営の巧拙が収益を大きく左右する。
今回は、軽貨物事業の全体像とその“本当の可能性”を、データと現場の両面から解説していこう。
矢野経済研究所によると、日本の物流業全体の市場規模は2022年度時点で約24.3兆円。
その中で、軽貨物運送・ラストワンマイル配送分野は2022年に約2.9兆円、2025年には3.3兆円規模まで拡大すると予測されている。
背景にあるのは、Amazonや楽天などのEC市場の急拡大と、消費者の「即日配送」「再配達ゼロ」志向の強まりだ。
国土交通省のデータでは、宅配便の取扱個数は2010年に約33億個だったものが、2022年には約49億個まで増加。
その中で「軽自動車による小口配送」が担う割合は着実に伸びており、物流の末端インフラとして不可欠な存在になっている。
つまり、軽貨物業界は“成熟市場の中の成長領域”。
この数年だけ見ても、EC需要の増加=軽貨物ドライバーの需要拡大という構図が明確になっている。
軽貨物事業の大きな特徴は、参入しやすさにある。
普通自動車免許と軽自動車、そして**営業用ナンバー(黒ナンバー)**を取得すれば、基本的に開業できる。
法人でなくても個人事業主としてスタート可能で、初期費用も比較的低い。
開業には、運輸支局への「貨物軽自動車運送事業経営届出書」の提出と、軽自動車検査協会での営業登録が必要。
この手続きに要するコストは、車両を所有していれば10万円前後で済むケースも多い。
この手軽さから、脱サラ・副業・定年後の再スタートとしても注目を集めている。
ただし、参入障壁が低い=競争が激しいという現実もある。
全国の黒ナンバー登録台数は、2023年時点で約220万台(軽自動車検査協会調べ)。
数年前から比べても右肩上がりで増加しており、“参入しやすさ”が“価格競争の激化”を招く構造になっている。
軽貨物が扱うのは、軽自動車で運べる荷物、つまり最大積載量350kg以下の貨物だ。
配送距離も短距離中心で、**「都市内ピストン輸送」**が主流。
小回りが利き、細い道にも入れるため、宅配・飲食・医療・建設資材など幅広い業種に活用されている。
また、荷主との契約形態も多様だ。
業務委託(フリーランス)型、法人契約型、車両リースを含む包括契約など、現場ごとに契約内容が違う。
この柔軟性はメリットでもあり、反面、リスク分担や契約条件の交渉次第で収益が大きく変わる要因にもなる。
最近よく聞かれるのが「ガソリン代が上がっても運賃が上げられない」問題。
理由は明確で、以下の構造がある。
この構造的な理由により、燃料価格が上昇してもその負担は多くの軽貨物事業者が内部で吸収しているのが実情だ。
軽貨物事業で“稼ぐ”ためには、単に走るだけでは足りない。
必要なのは、契約設計・稼働効率・コスト管理の3点だ。
燃料連動条項や待機・回送費の扱いを契約時点で定めておく。
「請求できないコスト」を減らすことで利益を守る。
空車時間を減らすために、荷主ネットワークを複線化し、ルートを最適化する。
GPSや配車アプリの活用で、デジタルによる効率化も鍵。
燃料、保険、整備、タイヤ交換など全コストを管理。
数字で利益率を可視化すれば、改善点が浮かび上がる。
スポット案件に依存せず、安定的なキャッシュフローを作る。
これにより、車両リースや人材育成などの再投資が可能になる。
これからの軽貨物は「単なる運び屋」ではなくなる。
食品・医療・化粧品など温度管理・衛生管理が必要な分野への進出も進んでいる。
さらに、2024年問題(残業規制)によって大手運送会社が手放す小口案件を、軽貨物事業者が補完する動きもある。
中小事業者や個人が物流の“最後の1km”を担う構図は、今後も拡大していくだろう。
軽貨物事業は、参入が容易で、かつ社会に欠かせない存在になりつつある。
だが、成功するには「走る」よりも「考える」力が問われる。
契約の仕組み、コストの把握、効率化、そして信頼関係の構築――。
これらを地道に積み上げることで、1台の軽バンが地域物流を支える中核になり得る。
軽貨物の未来は、決して単価勝負の世界だけではない。
むしろ、知恵と仕組みで差をつける“ビジネス”へと進化している。
それでは本日も安全運転で!ごきげんよう。

中島 一
運送会社の役員として10年以上にわたり物流業界に携わり、3PL事業も展開。物流の上流工程からラストワンマイルまで一貫して対応できる幅広い知見を持つ。
また、行政担当者や各業界の経営者を交えた勉強会を主催し、現場課題から政策動向まで多角的に把握。実務と行政の両面から、物流ビジネスの最適解を探求している。
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