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昭和の男が令和に敗北するまでの全記録


前提が、崩れた。

事前点検済み。整備チェック済み。準備は完璧だった。完璧なはずだった。「はずだった」という言葉は、いつだって敗北宣言の別名だ。

レーンに入った。ライトを点けた。

右だけ、弱い。

明らかに、決定的に、言い逃れのできないほど弱い。光量不足。さっきまで普通に光っていたのに。さっきまで、確かに、疑いようもなく普通に光っていたのに。

しかも検査未実施扱い。不合格ですらない。存在を、否定された。


昭和の男には、伝統がある。

叩く。

理由はない。根拠もない。エビデンスなど存在しない。あるのはただ、叩けば直るという昭和生まれの血に刻まれた確信だけだ。電化製品も電装系も、叩けば直る。それが信頼と実績が証明してきた、唯一にして最強の真理だった。

ダメだった。

伝統工法が、通用しなかった。昭和が、令和に負けた瞬間だった。


ならば手順を踏もう。冷静に、合理的に、大人として。

事務所に戻る。工具を持つ。ヘッドライトを外す。バルブを抜き差しする。

ダメだった。

新品のバルブに交換する。ダメだった。電圧を疑う。でも反対側のライトは正常だ。他の電装も全部正常だ。新品のバッテリーに繋いでみる。ダメだった。コネクタの汚れを掃除する。ダメだった。

やっていることは間違っていない。手順も、判断も、根性も。なのに当たらない。これが電装系というものの、本質的な意地悪さだ。 摩訶不思議アドベンチャーとはよく言ったものである。


男らしく、潔く、諦めた。

そして電話した。仲の良い整備士に。かくかくしかじかと状況を説明した。すると向こうが言った。

「ヒューズ見ました?」

――ヒューズ?

「消えてないよ?光ってるんだよ?」と言い返した。すると向こうが言った。「だから見てみてください」

半信半疑で確認した。

飛んでいた。普通に、飛んでいた。


ここで問いたい。あなたなら思うだろうか?

ヒューズが飛んだら、消える。それが常識だ。昭和の常識だ。光っているのだからヒューズではない。光っているのだから大きな問題ではない。光っているのだから――

しかし最近の車は違う。安全設計が進化している。ヒューズが異常でも、完全消灯を避けるように作られている。だから弱くでも、かろうじてでも、点灯を維持する。

結果として生まれるのが、「光っているが、足りない」 という摩訶不思議な状態だ。見た目は正常。実態は異常。昭和の直感が、令和の設計思想に完全敗北した瞬間だった。


学んだ。痛感した。いぶし銀は、アップデートされた。

情報は更新しなければならない。日々の学びを怠ってはならない。昭和の経験則は尊い。しかしそれだけでは、令和のヒューズには勝てない。

順番を覚えておけ。まずヒューズ。次に接点。最後にバルブ。

点いているかではなく、正常かを見ろ。

それが今日の結論だ。昭和生まれのいぶし銀からの、敗北と学びの全記録である。

それでは本日も安全運転で、ごきげんよう。

鈴木 徳俊

軽バン工房の整備担当。学生時代には法曹界を志していたという異色の経歴を持つ。現場ドライバーさんからの信頼が厚く、車のトラブル相談はもちろん、仕事上の悩みまで持ち込まれる存在。
日々、声に耳を傾けながら最適な整備とサポートを行っている。休日はスーパー銭湯や日帰り温泉で、風呂上がりのビールを片手に、笑顔の妻と過ごす時間を何よりの楽しみにしている。

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