スズキ エブリイPC 64V
2026.03.16
中古車車選び
軽貨物を始めようとする人間が最初に考えることは、だいたい決まっています。
車です。
「どうせ最初はぶつけるだろうし」 「とりあえず安い車でいいかな」
この考え方は、軽貨物スタートあるあると言っていいでしょう。整備側から見ていても、本当によく見ます。むしろ珍しくありません。
ただし——ここに、一つだけ落とし穴があります。
車が止まると、仕事も止まる。
シンプルな話です。シンプルすぎて、見落とされる話でもあります。
そしてその原因は、エンジン性能でも走行距離でもありません。もっと地味で、もっと厄介なところにあります。
部品が、手に入るかどうか。
今回は実際に現場で起きた話をしたいと思います。教訓めいた話ではありません。ただの、事実の話です。
安い軽バンでも仕事になるのか。 古い軽バンはコスパがいいのか。 中古で四十万円くらいの車でも黒ナンバーで問題ないのか。
答えだけ先に言います。仕事はできます。
ただし軽貨物の車は、普通の乗用車とは使われ方がまるで違います。
軽貨物の車は、とにかく働きます。
毎日走ります。荷物を積みます。アイドリングします。気づけば年間三万キロです。
車からすれば、完全にブラック企業です。人間だったら三日目には労働条件の確認を求めているレベルだと思います。
しかも休憩なし。雨でも走ります。猛暑でも走ります。年末は残業確定です。
そんな働き方をしている以上、消耗部品は必ず傷みます。ゴムホース、ベルト、パッキン、ウォーターポンプ——整備士からすれば日常メニューです。
問題はそこじゃありません。
その部品が、すぐ手に入るかどうか。
ここで、車選びの差が出ます。
先日、協力会社のドライバーから電話がありました。
「車がオーバーヒートっぽいです」
配送中の電話です。こちらも少し緊張します。
数時間後、レッカーで車が入庫しました。積載車の荷台に乗ったその車を見た瞬間、整備スタッフ全員から同じ声が出ました。
「あー……」
苦笑い、というやつです。
古いミニキャブでした。配送経験が長い人間なら「あのタイプか」となる車です。そう、ボンネットが開かないミニキャブです。
誤解させたくないので言っておきます。この車は、実はいい車です。
荷室は広い。ハンドルは軽い。燃費もそこまで悪くありません。現場ではけっこう人気があります。
そして中古市場では安い。走行十万キロ以下、外装もそこそこ、それで四十万円。軽貨物を始める人間からすれば「これで十分じゃない?」となります。
整備側から見ると「これ、後で泣かないかな」となります。
この温度差が、今回の話の本体です。
点検を始めます。このミニキャブはエンジンがシート下にあります。シートを外します。カバーを外します。やっとエンジンです。整備士はこの時点でちょっと覚悟を決めます——というのが、このタイプあるあるです。
原因はすぐ分かりました。冷却水ホース。ただのゴムホースです。
整備士的には「あーはいはい、いつものやつね」というレベルの故障です。普通の車なら部品交換、三十分、完了。そういう修理です。
ところがここから、話が変わります。
さて部品を注文しよう——と思ったところで、問題が発生しました。
部品がありません。
メーカー供給終了。絶版です。
この瞬間、整備工場の空気が変わります。整備士はだいたい同じ行動を取ります。まず、黙ります。そして誰かが言います。
「ネット、探しますか……」
整備士の宝探しが始まります。
中古部品を探します。流用できそうな部品を探します。海外在庫まで探します。この時だけ、整備士の集中力が平常の三倍くらいに跳ね上がります。
そして数時間後——見つかりました。全員で「よし!」となります。
しかし次の瞬間、画面に表示された文字を見ます。
発送予定、一〜二週間。
整備工場あるあるです。
この一〜二週間が、軽貨物では一番怖いです。
車が止まると、仕事も止まるからです。
軽貨物において車はただの移動手段ではありません。仕事道具です。大工の電動ノコ、寿司屋の包丁、そういうものです。それが止まると、仕事も止まります。
レッカー費用、修理費、代車費用、売上停止——これを全部足すと、四十万円という車両価格は意外とあっさり意味を失います。
中古車が安いとき、整備士はだいたい同じことを考えています。
「安いのには、理由がある」
全部が悪い車ではありません。ただ整備士の頭の中では、常にこの一点だけを考えています。
部品、あるかな。
整備士が安心できる車は、よく見る車です。エブリイ、ハイゼット——このあたりは整備工場でも毎日のように見ます。つまり、壊れても何とかなる車です。
逆に古い車や珍しい車を見ると、整備士はちょっと遠くを見ます。そして言います。
「これ……部品あるかな」
この一言が出る車は、軽貨物では注意が必要です。
現場で見ていると、詰まりやすい人には共通点があります。
とにかく車を安く買おうとすることです。
気持ちは分かります。軽貨物を始めるとき、出費は抑えたい。それは正しい感覚です。
ただし軽貨物では、安い車が必ずしも安く済みません。むしろ後から高くつくことの方が、経験上多いです。
安い軽バンが悪いわけじゃありません。
ただ軽貨物では——止まらない車が、一番強いです。
最初の車選びは、想像以上に大事です。配送車両選びの、何かの参考になれば幸いです。
それでは、本日も安全運転で。ごきげんよう。

鈴木 徳俊
軽バン工房の整備担当。学生時代には法曹界を志していたという異色の経歴を持つ。現場ドライバーさんからの信頼が厚く、車のトラブル相談はもちろん、仕事上の悩みまで持ち込まれる存在。
日々、声に耳を傾けながら最適な整備とサポートを行っている。休日はスーパー銭湯や日帰り温泉で、風呂上がりのビールを片手に、笑顔の妻と過ごす時間を何よりの楽しみにしている。
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