スズキ エブリイPC 64V
2026.03.17
お金経営
今回ばかりは、テレビが正しかった。
中東が緊張した。原油が上がった。ガソリンが高騰しつつある。ドライバーがため息をついている。
珍しいことに、物語通りに事態が動いている。
ただし——テレビが正しい理由を、テレビは説明できていない。
だから今回も、多くの人が「なんとなく怖い」で止まっている。構造を見ていない。構造を見ていない人間は、次の局面で必ず判断を誤る。
結論を先に置く。今起きていることは「単なる中東の戦争」ではない。世界の石油インフラへの直接攻撃だ。この違いが、価格の挙動をまったく変える。
時系列を整理する。
2026年2月28日、米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始した。これを受けてイランは反撃を開始し、イラクの領海では外国籍の石油タンカー2隻がイランのドローン攻撃を受け、少なくとも1人が死亡した。
そして決定的な事態が起きた。
ホルムズ海峡の封鎖が続き、世界の日々のエネルギー流通量の20パーセントが影響を受けている。
ホルムズ海峡とは何か。ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ幅約50キロの海峡で、世界の石油輸送量の約20〜21パーセントが通過する、「世界の石油の咽喉部」と呼ばれる最重要ルートだ。日本は原油輸入の94パーセントを中東地域に依存しており、タンカーの8割がホルムズ海峡を通る。
咽喉部が塞がった。これは「中東が不安定」という話ではない。世界のエネルギー供給システムそのものへの攻撃だ。
今回の主役はイランだが、イラクも無視できない。
米国・イスラエルとイランの軍事衝突によるエネルギー供給への影響が広がっており、OPECで産油量第2位のイラクは、同国最大のルマイラ油田の生産停止に着手した。
ルマイラ油田はイラク最大の油田だ。そこが止まる。
以前の記事で「イラク情勢は市場の想像を取引しているだけ」と書いた。それは正しかった——昨日までは。今回は違う。想像ではなく実際に供給が止まっている。市場が反応するのは当然だ。
数字を見る。
2026年3月現在、レギュラーガソリンの全国平均価格は1リットル161.8円と4週連続で上昇している。一部地域では180円台を突破し、さらに200円台も視野に入る状況だ。
ただし、この数字には政府の補助金が織り込まれている。政府補助金がなければ推計で185〜200円水準だ。
つまり今見えている価格は、すでに政府が抑えた後の価格だ。素の市場価格ではない。
経済産業省の試算では、現在の原油価格水準が続けば国内ガソリン価格は1リットル191円になる計算で、来週16日には前週比5円以上の上昇、再来週23日には170円を大きく超えて180円台に乗せる可能性が見えてくる。
さらに悪化シナリオを見ると、WTI原油先物価格が1バレル100ドルで推移する場合、国内ガソリン価格は政府の対策が講じられない際には1ヶ月程度で1リットル235円まで上昇する計算となる。
235円。軽貨物ドライバーには笑えない数字だ。
年間走行距離3万キロ、燃費9キロ毎リットルで計算する。年間燃料消費量は約3,333リットルだ。
今の160円台から180円台への20円上昇で、年間約6.7万円の増加。200円台まで上昇すれば年間約13.3万円の増加になる。
ガソリン価格が10円上がると、一般家庭の年間負担は約1万2,000円増加する。一般家庭でその数字なら、年間3万キロ走る軽貨物ドライバーへの影響はその数倍だ。
コンビニコーヒーに換算すると笑える金額だが、燃料費だと笑えない。同じ金額でも文脈が変わると感情が変わる。人間とはそういう生き物だ。
緊張感を煽りたいわけではない。ここで冷静に戻る。
ブレント原油価格は今後2ヶ月間、1バレル95ドル以上で推移するが、2026年第3四半期には1バレル80ドルを下回り、年末には70ドル前後になるとの予測もある。
市場は今、恐怖を取引している。それは今回は正当な恐怖だ。しかし恐怖は永続しない。
ガソリン価格を動かす構造は変わっていない。原油市場、為替市場、国内流通市場——この3つだ。今回は原油市場が本物の供給ショックを受けているが、為替と国内の補助金政策が部分的にそれを吸収している。
今回が特別なのは、「想像の取引」ではなく「現実の供給停止」だからだ。しかしだからこそ、事態が収束すれば価格も戻る。市場はドラマに興味がない。需要と供給だけを見ている。
今の局面でドライバーが見るべき指標は3つだ。
ホルムズ海峡の通航状況。WTI原油価格。そして政府の補助金政策。
政府は3月19日出荷分からガソリン補助金を再開し、全国平均170円程度への抑制を目標としている。 これが機能するなら、店頭価格は1〜2週間以内に落ち着き始める。
機能しない場合——つまり原油が100ドルを超えて高止まりするシナリオでは、200円台が現実になる。
ニュースではなく、この3つの数字を見る。それだけで判断の質は変わる。
今回ばかりは、テレビが正しかった。
しかしテレビが正しい回だからこそ、構造を理解している人間と理解していない人間の差が最も大きく出る。
恐怖に飲まれて判断を誤る人間と、構造を見て次の一手を打てる人間。その差は情報量ではない。見ている対象の差だ。
ニュースはドラマだ。価格は数字だ。今回は珍しくドラマと数字が一致している。だからこそ、数字だけを見続けることに意味がある。
世界が燃えていても、市場は冷静に需給を計算している。あなたもそうあるべきだ。
明日の空が、限りなく透明に近い青色でありますように。

中島 一
運送会社の役員として10年以上にわたり物流業界に携わり、3PL事業も展開。物流の上流工程からラストワンマイルまで一貫して対応できる幅広い知見を持つ。
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