スズキ エブリイPC 64V
2025.10.25
お金経営
2025年秋、新潟県で住宅事業を展開していた「ニコハウス」が経営破綻しました。
報道によると、同社は資金繰りが悪化する中で、自転車操業から抜け出せず、最終的に支払い不能に陥ったとされています。
その背景には「受注を確保するための過剰サービス」がありました。
リフォームや新築の見積で、他社なら有料の高級クロスや水回り設備を「無料」で付けたり、相場を大きく下回る金額で受注したりしていたというのです。
表面上は「お得で親切な会社」。
しかし裏では、適正利益を取れない構造に陥り、結果的に事業継続が不可能になったという典型例です。
この話、実は軽貨物業界にもそっくり当てはまります。
今、軽貨物の委託市場では、受注競争が激しくなる一方です。
SNSやマッチングサイトを見ると、
「1個130円でやります」「月30万円で常用契約します」
といった“格安見積り”があふれています。
一見すると、
「仕事を取りやすい」「ドライバーを稼働させられる」
ように見えますが、それは短期的な錯覚にすぎません。
利益を削って受注しても、会社は回らない。
この当たり前の現実を無視した結果、後で資金繰りが崩壊するのです。
軽貨物企業が1案件を受託する場合、
・管理者人件費
・事務所・保険・通信費
・ドライバー募集や教育コスト
など、見えない固定費が必ず発生します。
単価を下げて受注しても、会社の粗利(営業利益)は確実に減ります。
一時的にキャッシュは回っても、資金の回転スピードが追いつかず、支払いサイクルで詰まります。
結果、ニコハウスと同じく「入金が足りない→次の案件を安く受ける→さらに苦しくなる」という自転車操業に陥るのです。
安さで仕事を取っても、肝心のドライバーが長続きしません。
1個単価120円台や日給1万2,000円レベルでは、
燃料費・保険・税金を引くと、手元に残るのは月20万円前後。
これでは生活が成り立たず、次々に離職します。
そして欠員対応で現場管理者が疲弊し、結果的にミス・クレームが増える。
企業にとって「単価を下げる=採用コストと管理負担が跳ね上がる」ことを意味します。
「うちは安いから頼みやすい」と言われるようになった時点で、
その会社は“価格だけで選ばれる存在”になります。
その後、少しでも単価交渉をすれば、
「他社はもっと安い」「じゃあそっちに頼む」
と切り替えられる。
つまり、安く請けるほど価格支配力を失っていくのです。
一方、品質・信頼で仕事を取っている会社は、
多少単価が高くても「〇〇さんに任せたい」と指名されます。
この差が、5年後・10年後に企業の存続を分けます。
ニコハウスが倒れた背景には、“無料”という言葉の危うさもありました。
無料は確かに消費者にとって魅力的です。
しかし、企業が「原価を負担して無料にしている」以上、それは利益の先食いにほかなりません。
軽貨物でも同様です。
・積み込みや仕分けを「サービスでやります」
・夜間対応を「無料で受けます」
・ドライバー紹介料を「会社負担にします」
一つひとつは顧客サービスに見えますが、積み重なれば大きなコスト。
「無料」を増やすたびに、会社のキャッシュは減っていきます。
値段を下げるのではなく、「なぜその価格なのか」を説明できるようにすることが重要です。
たとえば、
・ドライバー教育を社内で実施して事故率を下げている
・配送品質を担保するための再配達削減システムを導入している
・燃料高騰分を明示して契約単価に反映している
こうした“適正価格の根拠”を持つことで、単価交渉が成立します。
安さではなく、合理的なコスト設計で選ばれる会社を目指すべきです。
単価を叩いてくる荷主を「悪い顧客」と切り捨てる勇気も必要です。
無理な要求を飲んで契約を続けるほど、社員やドライバーのモチベーションも下がります。
「適正価格で継続できる顧客だけを残す」方が、長期的に安定します。
資金繰りを守るには、売上よりも回収サイクルを見ることが大切です。
月末締め翌々月払いの案件が多い中、手元資金を1か月分確保しておかないと、仕入(燃料・保険)に詰まります。
利益よりも「現金が残る構造」を優先して契約を設計することが、経営を持続させる鍵です。
ニコハウスの倒産は、他人事ではありません。
軽貨物業界でも「安さ」「無料」「サービス」で仕事を取りにいく風潮がありますが、
利益の出ない仕事を増やしても会社は救われません。
「安くすれば取れる」は短期戦略。
「適正価格で選ばれる」は生存戦略です。
最も危険なのは、「現場は頑張っているのに会社が赤字」という状態。
これは、安請け合いと無料サービスが積み重なった“経営の病”です。
経営者もドライバーも、数字を直視し、
「利益を残す=継続できる」構造をつくることが何よりの安全運転です。
それでは本日も安全運転で!ごきげんよう。

鈴木 徳俊 軽バン工房の機械係
45歳。軽貨物業界の現場を知る一人として、リアルな経験をもとにブログを執筆。日々の業務や業界の動向、事業者やドライバーにとって役立つ情報を発信している。
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