スズキ エブリイPC 64V
2026.08.17
お金中古車
「ローンやリースは金利や手数料がかかる。だったら現金で買った方が得ですよね?」
たしかに。
100万円の車を100万円で買えるなら、110万円払うより100万円で買った方が安い。
算数としては正解です。
ところが会社経営では、算数として正しいことが、経営として正しいとは限りません。
なぜなら会社は、
利益がなくなって倒産するとは限らないからです。
黒字でも倒産します。
逆に赤字でも、しばらく生きている会社はあります。
会社が本当に死ぬ瞬間はかなり単純で、
払うお金がなくなったときです。
今回は、軽貨物会社が車を増やすときに意外と見落としやすい「車両価格」と「現金」の話をしてみます。
例えば会社に300万円の現金があるとします。
業務拡大のため、中古の軽バンを3台購入することになりました。
1台100万円。
3台で300万円。
ちょうど買えます。
借金ゼロ。
ローンゼロ。
リース料ゼロ。
素晴らしい。
そして銀行口座もほぼゼロ。
急に不安になってきました。
もちろん実際には運転資金まで全部使って車を買う会社は少ないでしょう。
ただ、極端にすると問題が見えやすくなります。
会社にとって現金は、
余っているお金ではありません。
給料を払う。
外注費を払う。
燃料代を払う。
保険料を払う。
税金を払う。
修理代を払う。
そして何か予想外のことが起きたときにも使う。
つまり会社の現金というのは、会社が生きるための酸素みたいなものです。
酸素ボンベを売って車を買えば、たしかに車は手に入ります。
問題は、そのあと息ができるかです。
ここが会計を少しややこしくしています。
300万円で車を買った。
会社から現金300万円が出ていきます。
でも損益計算書上で、その瞬間に300万円の費用が発生するわけではありません。
車という資産に姿を変えただけだからです。
会計上は減価償却によって、一定期間に分けて費用化されていきます。
だから決算書だけを見ると、
「利益はちゃんと出ている」
ということがあります。
でも銀行口座を見ると、
「金がない」
となる。
別に会計が嘘をついているわけではありません。
見ているものが違うだけです。
利益と現金は別物。
会社経営では当たり前の話なのですが、車を何台も買う事業では特に重要です。
軽貨物会社が事業を拡大するとします。
仕事が増えた。
ドライバーも増えた。
だから車を増やす。
一見すると非常に健全な成長です。
ただし、ここには小さな罠があります。
売上は後から入ってくることが多い。
でも車を現金で買えば、お金は先に出ていく。
つまり、
成長するために先に現金が必要になる。
という構造です。
例えば新しい案件を取るために5台必要になったとします。
1台80万円なら400万円。
車を用意した翌日から400万円分の利益が出るわけではありません。
ドライバーが稼働して、
配送して、
請求して、
入金される。
そこまで時間があります。
その間にも給料や外注費、燃料代、保険料などは発生します。
売上が増えている。
車も増えている。
仕事も増えている。
なのに金が減っていく。
経営者としてはなかなか気持ちの悪い状態ですが、事業が急成長すると普通に起こり得ます。
では車両価格100万円の軽バンがあるとします。
方法A。
現金100万円で購入。
方法B。
ローンやリースなどを利用して、仮に月々数万円ずつ支払う。
総支払額だけを比較すれば、一般的には資金調達コストが加わるBの方が高くなる可能性があります。
だから、
「現金購入の方が得」
となる。
でも会社経営では、もう一つ比較する数字があります。
手元にいくら現金が残るか。
例えば現金300万円の会社が100万円の車を買えば、残り200万円。
同じタイミングで3台買えば、ほぼなくなります。
一方、分割で調達すれば総支払額は増えても、手元には現金を残せる。
つまり余計に払っている金利や手数料は、
単なる無駄ではなく、
「現金を今使わないための料金」
とも考えられます。
「借金はしたくない」
という経営者は珍しくありません。
気持ちはよく分かります。
借金ゼロ。
聞こえがいい。
精神的にも楽です。
でも、
借金0円、現預金50万円の会社。
借金500万円、現預金1,000万円の会社。
どちらが安全でしょう。
当然、これだけでは判断できません。
借入条件、利益、キャッシュフロー、返済能力などを見る必要があります。
つまり、
借金の金額だけ見ても会社の安全性は分からない。
ということです。
無借金であることと、資金繰りが安全であることは別問題です。
会社に500万円ある。
この500万円は、まだ何に使うか決まっていません。
車を買える。
採用広告を出せる。
新しい仕事に投資できる。
突然の修理にも対応できる。
売上が落ちても数ヶ月耐えられる。
つまり現金には、
まだ使い道を決めていない
という価値があります。
ところが500万円で車を買った瞬間、
現金500万円は車になります。
車として働いてくれるので無駄ではありません。
ただし、
「来月200万円必要になったから、車のドアを200万円分だけ銀行に持っていこう」
というわけにはいきません。
資産はある。
でも払えない。
会社ではこの状態が普通に起こります。
増車するときには当然、未来の売上を想定しています。
5台増やす。
5人稼働する。
売上が月○○万円増える。
だから車を買う。
計算上はきれいです。
問題は未来が計算通りになる保証がないことです。
ドライバーが辞める。
案件が減る。
事故が起きる。
取引先からの入金が遅れる。
車が故障する。
想定より稼働率が低い。
会社経営というのは、Excelでは起こらなかったことが現実では頻繁に起こります。
そんなとき最後に助けてくれるのが現金です。
だから事業投資では、
予定通りいった場合の利益だけでなく、予定通りいかなかった場合に何ヶ月耐えられるか
も考えた方がいい。
もちろん、そんな話でもありません。
リースやローンには毎月の支払いがあります。
総支払額が増えることもあります。
契約期間中の固定費にもなります。
仕事がなくなったからといって、車両代まで一緒になくなってくれるわけではありません。
現金購入なら支払いを終えた車が資産として残ります。
だから、
現金購入=悪。
リース=正義。
ではありません。
もしそんな単純な結論なら、この記事もここまで長くする必要はありませんでした。
車をどう調達するかを考えるとき、
総支払額だけを見ると現金購入が魅力的に見えることがあります。
でも法人なら、
手元資金はいくら残るか。
毎月いくら固定費が増えるか。
何ヶ月分の運転資金を確保できるか。
売上が想定を下回っても耐えられるか。
次の増車に対応できるか。
こうしたことも一緒に考える必要があります。
100万円を一括で払うのか。
多少余計に払ってでも100万円を手元に残すのか。
これは車の買い方というより、
会社の資金をどこに置いておくかという経営判断です。
「現金で買えるなら現金で買った方が得」
個人の買い物なら、かなり分かりやすい考え方です。
でも会社では、
払えることと、払うべきことは違います。
手元に1,000万円ある会社が、
「借金は嫌だから」
と1,000万円分の車を現金購入して、預金残高をほぼゼロにする。
借金はありません。
車もあります。
決算書には資産もあります。
そして翌月の給料日に困る。
かなり健康そうな数字を並べながら死にかけるという、会社経営独特の現象です。
だから車両を増やすときは、
「現金で買えるか?」
だけではなく、
「買ったあと、いくら現金を残すべきか?」
を先に考えてみてください。
車は会社の売上を作ってくれます。
でも残念ながら、
駐車場に並んでいる軽バンでは、給料の振込はできません。
明日の空が、限りなく透明に近い青色でありますように。

中島 一
運送会社の役員として10年以上にわたり物流業界に携わり、3PL事業も展開。物流の上流工程からラストワンマイルまで一貫して対応できる幅広い知見を持つ。
また、行政担当者や各業界の経営者を交えた勉強会を主催し、現場課題から政策動向まで多角的に把握。実務と行政の両面から、物流ビジネスの最適解を探求している。
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